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インプラントとは?概要・メリットデメリット・リスクなどの基礎知識
インプラント治療を受けたいと考えている方に向けて、インプラントとはどのような治療法かご紹介します。
歯を失ったときに、治療の選択肢のひとつとなるのがインプラントでしょう。しかし入れ歯やブリッジと迷ったり、高額な費用をどう支払うべきか悩んだりする方も少なくありません。「もし治療を受けて後悔したら…」と不安に思う方もいます。
そこでインプラントとはどのような治療であるか、概要からメリット・デメリット、リスク、治療の流れ、費用など、さまざまな観点から解説していきます。
読んでいただければインプラントに関する基礎知識を理解していただけるはずです。
目次
インプラントとは
それではまず、インプラントとはどのようなものか見ていきましょう。歴史・構造と種類・ブリッジや入れ歯との違い、寿命と4つの観点からご説明します。
歴史
インプラントの歴史を遡ると、紀元前には同じような治療が行われていたと考えられています。
しかし現在のようなインプラント治療は1900年代初頭に誕生したとされており、当時は生体に適合しない金属が多く用いられていました。そのため治療の結果は良くなかったようですが、1950年台にチタン製のインプラントが用いられるようになったことで広まりました。同時期に「チタンと骨が結合する」ことが発見されたためです。
1965年にはスウェーデンのイェテボリ大学でオッセオインテグレーテッドインプラントの臨床結果を報告したことで、世界中で承認されるようになりました[1]。
その後のインプラントでは良い治療結果を残せるようになりました。そして多くのメーカーからインプラントが販売されるようになり現在に至ります。日本におけるインプラント治療は、東京歯科大学により1983年から導入されました[1]。その後、1985年から本格的なインプラント治療を開始。
以上のようにインプラントとは長い歴史を持つ歯科治療であり、現在では世界中で承認されています。
インプラントの構造と種類
インプラントの基本構造は、おもに表から見える「上部構造」と、歯肉の中に埋まる「アバットメント」「フィクスチャー」の3つに分けられます[2]。
インプラントの土台の役割を果たしているのがフィクスチャーで、歯の役割を果たすのが上部構造です。そしてフィクスチャーとネジ式である上部構造をつなぐのがアバットメントの役割となります[2]。
上部構造やアバットメント、フィクスチャーなどのインプラント部品は、さまざまなメーカーから販売されています。そのため多種多様な種類があるため、それぞれの種類と形状について確認していきましょう。
インプラントの種類による違い
まずはインプラントの種類について、2種類をご紹介します。
インプラントの種類1:ワンピースタイプ
ワンピースタイプのインプラントとは、アバットメントとフィクスチャーが一体となるタイプのことです。そのためインプラント装着に必要な部品が2つのみとなります。
ワンピースタイプはパーツの少なさから手術回数が少なく、価格も安くなる傾向です。しかし顎の骨の厚みが足りないと適用できないことがあり、術式の選択が限られるとのデメリットもあります。またトラブルが起きた際にはインプラントをすべて摘出しなくてはなりません。
アバットメントとフィクスチャーが一体となるワンピースタイプでは、構造がシンプルでメリットが多いように感じられます。しかしデメリットや適応外の症例もあるとのデメリットも存在することを知っておいてください。
インプラントの種類2:ツーピースタイプ
ツーピースタイプとはワンピースタイプとは違い、アバットメントとフィクスチャーを連結させるタイプのインプラントのことです。
ツーピースタイプは多くの症例で適用可能で、ワンピースタイプと比べて術式の選択肢も増えます。しかし手術回数が増えることや、価格が高価なこと、長期安定に時間がかかることなどがデメリットです。またネジで接続するタイプなので、経年劣化によりネジが緩んでしまうことも少なくありません。
ワンピースタイプにも言えることですが、ツーピースタイプにもメリットとデメリットの両方があります。ご自身の希望や口腔内の状態を含めて考えて、どちらにするか選択してください。
インプラントの形状による違い
続いてはインプラントの形状ごとに違いを見ていきましょう。
インプラントの形状1:スクリュータイプ
インプラントで最も広く用いられているのが「スクリュータイプ」と呼ばれる形状です。スクリュータイプはネジのような形状であり、顎の骨に埋入する際にネジを埋め込むように回転させながら装着させます。
他の形状と比べて、顎の骨に固定されやすいのがメリットです。
インプラントの形状2:シリンダータイプ
シリンダータイプはネジがついておらず、円筒形をしています。そのため回転させるのではなく、ハンマーで上からたたきながら装着することが特徴です。それほど広く採用されておらず、スクリュータイプのほうが一般的な方法となります。
スクリュータイプに比べて骨に埋入させるのは簡単ですが、固定が弱くなりがちなことがデメリットです。
インプラントの形状3:バスケットタイプ
最後にご紹介するバスケットタイプとは、中が空洞になっているタイプのインプラントです。穴は内部と側面に開けられており、顎の骨がインプラント内部まで入り込めるようになっているのが特徴と言えます。
しかし穴の中にまで骨を埋め込めるようにするための技術が必要であることと、強度が弱いことがデメリットです。そのため現在ではスクリュータイプ・シリンダータイプに比べて採用されることは少なくなりました。
ブリッジ・入れ歯との違い
インプラントとブリッジ・入れ歯との根本的な違いは、義歯を装着するか埋め込むかとなります。インプラントは顎の骨に義歯を埋め込んで装着しますが、ブリッジや入れ歯は骨に埋め込まず、見えるところだけの義歯を補う治療方法です。
ブリッジは失われた歯を補うために、両端の歯を削って土台とし、針金で義歯を装着します。入れ歯も周辺の歯にバネを設置して義歯を装着する治療方法で、ご自身での取り外しも可能です。
対してインプラントは他の歯にバネや針金をかけることはありません。顎の骨にネジを受けるための装置を挿入して、下部がネジ状となった義歯を挿し込んで固定します。
インプラントとブリッジ・入れ歯は治療方法が根本的に違うため、治療の回数や期間、費用もブリッジや入れ歯の方が負担が少ない傾向です。しかし基本的な違いは、外科手術により義歯を骨に装着するかしないかとの点だと言えるでしょう。
【関連記事】インプラントとブリッジ・入れ歯の違い
インプラントの寿命
インプラントの寿命はメンテンナンスにより大きく変わります。インプラントの寿命を調査した研究結果によると、残存率は次の通りとなりました。
【インプラント残存率】
- 5年目:96.3%
- 10年目:92.6%
- 13年目:89.9%
出典:JSTAGE:(PDF)経過例からインプラント治療の長期寿命を検証する
10年目でも90%以上の残存率であることから、インプラントの寿命は10年以上と考えられます。しかし治療を完了させた後、36年間にわたりインプラント関連の疾患がなかった事例もあります。36年間、継続的に1年に1回のメンテナンスを継続していたためでしょう[3]。しかし反対にメンテナンスを怠ると、10年間も保たない可能性もあります。
インプラントはおよそ10年以上と寿命が長いものです。しかしメンテナンス次第で寿命が長くも、短くもなると考えられます。
【関連記事】インプラント寿命が短くなる原因とは?
インプラントのメリット
インプラントとはどのようなものかを踏まえた上で、続いてはどのようなメリットがあるのかを解説していきます。代表的な5つのメリットについて見ていきましょう。
メリット1:見た目がキレイ
まずインプラントのメリットとして、見た目がキレイであることがあげられます。インプラントは天然歯と同じような見た目なので、周囲の人から見ても違和感が少ない義歯です。
入れ歯やブリッジは、どうしても天然歯との違いがあります。色味が天然歯と違ったり、装着のための金具が見えたりするためです。その点インプラントであれば、セラミックやジルコニアなど、天然歯と遜色のない素材が用いられます。周囲から見ても義歯だとわからないこともあるでしょう。そのため見た目の美しさにこだわる方に適しています。
メリット2:入れ歯などに比べ咀嚼機能が回復する
インプラントのメリットとして次にあげられるのが、咀嚼機能が回復することです。インプラントは顎の骨に義歯を装着するため、咀嚼機能が下がってしまうことが少なくなります。
入れ歯やブリッジは周囲の歯に金具やバネをかけて義歯を装着する方法です。そのため咀嚼するたびに義歯とつながれている周囲の天然歯に負担がかかり、健康だった歯まで弱ってしまうことがあります。すると口内全体で咀嚼機能の低下へとつながるでしょう。もちろん負担を強いられた歯が、早めに抜け落ちてしまうことも考えられます。
顎の骨に直接装着するインプラントは、周囲の歯に負担をかけることがなく、咀嚼機能を維持しやすい治療法です。入れ歯やブリッジに比べて、咀嚼機能の回復にも役立ちます。
メリット3:天然歯と同じ感覚で噛める
インプラントは他の義歯に比べて、天然歯と同じ感覚で噛めるので食事の楽しさを損ないません。入れ歯やブリッジでは咀嚼力が下がることがあり、天然歯のようにしっかりと噛むのが難しくなることもあります。
しかしインプラントならまるで天然歯を使っているかのように、力を入れて咀嚼ができます。インプラントは天然歯と同じように、歯肉の下に埋まる構造です。構造が同じであるため咀嚼する際にも違和感を抱きにくく、顎の骨に支えられているためしっかりと噛めます。そのため咀嚼機能が回復し、今までと同じように食事が楽しめるようになるでしょう。
メリット4:顎の骨が痩せるのを防げる
顎の骨が痩せるのを防げるのも大きなメリットと言えます。顎の骨が痩せる原因は、咀嚼したときの力が顎の骨に届かなくなることです。そのため骨と結合していない入れ歯やブリッジでは、歯が失われた部分の顎の骨が痩せやすくなります。顎の骨が痩せると、次第に周囲の歯にも悪影響を及ぼしていきます。
インプラントは入れ歯やブリッジとは違い、顎の骨に直接装着する義歯です。装着したまま咀嚼をすると、天然歯と同じように顎の骨に負荷がかかります。
咀嚼は食べ物を食べるためのものだけではなく、顎の骨への刺激となり骨の健康を維持するためのものでもあります。他の義歯治療に比べて顎の骨へと干渉するインプラントは、顎の骨の痩せを防ぐ方法としても有効です。
メリット5:口の骨が痩せるのを防ぐ
インプラントでは顎の骨だけでなく、口の骨が痩せるのも防げます。咀嚼力は顎の骨だけでなく、口周辺の骨にも伝わるはずです。骨は咀嚼による刺激を受けられなくなると徐々に痩せていきます。しかしインプラントであれば咀嚼する力が口の周りの骨に伝わり、骨の痩せを防ぐことに繋がるはずです。
インプラントのデメリット
インプラントとは多くのメリットを持つ治療法ですが、メリットばかりではなくデメリットもあります。インプラントを検討されているなら、メリット・デメリットの両方を把握した上で決断をしてください。
デメリット1:保険対象外
インプラント治療における費用面のデメリットとして、保険適用対象外であることがあげられます。つまり保険対象外の自由診療となるため、治療費が高額になります。
治療費は症例やインプラントの本数により変わりますが、全国的な平均金額は1本あたり328,000~399,000円です[2]。1本だけの治療費だと考えると、高額だと感じられる方が多いのではないでしょうか。
入れ歯やブリッジであれば保険適用対象治療となるため、3割負担で済みます。しかしインプラント治療を受けるには、全額自費で支払う必要があることから、どうしても治療費が高額になりがちです。
【関連記事】インプラント治療に適用される保険の種類は?適用条件も紹介
デメリット2:外科手術を行わなくてはいけない
インプラントでは外科手術を行わなくてはいけないこともデメリットのひとつです。インプラントの手術では歯肉をメスで切開して、歯肉を開いて顎の骨を露出させます[2]。さらに顎の骨にドリルで、フィクスチャーを埋め込むための穴を開ける施術が行われるため[2]身体に負担がかかることは確実です。
治療は局所麻酔や鎮静法などのもとに行われるため、痛みは大幅に軽減されますが、不安や恐怖を感じる方もいらっしゃるでしょう。またインプラントの手術流に、感染症に罹患してしまうリスクも否定できません。
以上のようにインプラント治療では、入れ歯やブリッジ装着よりもおおがかりな外科手術が必要となるデメリットがあります。
デメリット3:治療期間が長い
次にご紹介するインプラント治療のデメリットは、治療期間の長さです。インプラント治療にかかる期間は、平均で4~6か月とされています。骨を増やす手術を行ったり、事前に虫歯や歯周病の治療を行わなければならなかったりする場合はさらに治療期間は長くなるでしょう。
一般的にインプラントの手術は、フィクスチャーを埋め込む手術を行った後、3~4か月間の治癒期間が必要です。そして安定した3~4か月後にアバットメントを連結するための手術を行います。さらに1~2週間の治癒期間をおき、上部構造を製作・装着する流れです。
以上のように骨への結合を待つための治癒期間が必要となることもあり、入れ歯やブリッジとくらべて治療期間が長くなりがちとなります。
【関連記事】インプラント治療の期間や通院回数、完了までの流れ
定期的なメンテナンスが必要
最後に、定期的なメンテナンスが必要であることもインプラントのデメリットと言えるでしょう。先に解説したように、インプラントの寿命はメンテナンスにより左右されます。メンテナンスを怠っていると、インプラント周囲炎になり部品が脱落してしまう恐れもあるためです[2]。
さらに定期メンテナンスは、インプラントの保証を受けるための条件であることも珍しくありません。定期メンテナンスを受けなければ、万が一の際の保証も受けられなくなってしまいます。
インプラント周囲炎の罹患率は42.9%と高いものです[4]。歯科医院ごとに定められた定期メンテンナンスを受けることはもちろん、日々のケアも丁寧に行わなければなりません。
インプラントのメンテナンス方法について
インプラント治療後のメンテナンスは、次のように行います[2]。
【メンテナンス方法】
- 食後はこまめに歯みがきをすること
- 正しい方法で歯みがきをすること
- デンタルフロス・歯間ブラシで歯の清潔を保つこと
- 歯科医院ごとに定められた定期メンテナンスを受けること
インプラントのメンテナンスに歯科医院の定期検診は欠かせませんが、日頃のケアも重要です。食後はこまめに歯みがきをするようにしたいものですが、正しいブラッシング方法で行うようにしましょう。
ただし歯ブラシだけではすべての汚れを落としきれません。理想的なのは1日3回以上の歯みがきを行い、さらにデンタルフロスや歯間ブラシでケアすることです[5]。
以上のように日々のケアを徹底することが大切ですが、歯科医院での定期メンテナンスを受けると、異常もすぐに発見できるようになります。万が一インプラント周囲炎になりかけていても、こまめにメンテナンスを受けることで早期発見が可能です。いずれも欠かさないようにして、良い状態でインプラントを使い続けられるようにしましょう。
【関連記事】インプラントのメンテナンスが必要な理由
インプラント治療を受けられない方
インプラント治療を受けたいと考えても、体の状態によって受けられない方もいます。手術を行うのが危険だと判断されたり、インプラントを埋入しても予後に問題が起きやすくなったりする場合です。
歯科治療を選択する際に、ご自身の体調を考慮して治療方法を選択することも必要となります。ご自身の体調や状態が、次のような項目に一致していないか確認してから治療を受けるようにしましょう。
治療を受けられない方1:全身性の疾患がある場合
特定の全身性疾患がある場合、インプラント治療を受けられないことがあります。インプラント治療で危険だとされるのは、次のような疾患のある方です[2]。
【危険性のある疾患】
- がん
- 心筋梗塞
- 出血が起こりやすい血液の病気
- 自己免疫疾患
- ビタミンD欠乏症
- 糖尿病
- 骨粗鬆症
- 金属アレルギー
全身性の疾患がある方の場合は、インプラント治療を受けられることもあります。しかし疾患のない方に比べて手術での危険性が高まるためよく考えて決断してください。
たとえば骨粗鬆症で「ビスフォスフォネート製剤」を服用している方の例です。インプラントの手術中に感染症に罹患すると、額骨壊死が起こることがあります2]。糖尿病の方であれば術後の回復が遅くなりがちで、感染症に罹患するリスクが高まるでしょう2]。その他の全身性疾患の場合でも、手術を行うリスクが高まることを知っておいてください[2]。
いずれの場合でも、全身性の疾患がある方であれば、主治医との相談のうえでインプラント治療を受けるかどうか判断するのが望ましいものです。
治療を受けられない方2:口腔内に問題がある場合
以下のような口腔内や歯の周囲に問題を抱えている方も、インプラント治療を受けられない可能性があります[2]。
【口腔内の問題】
- 虫歯
- 歯周病
- 口腔粘膜に起こる疾患
- 副鼻腔炎
- 上顎洞炎
虫歯や歯周病など口腔内に問題がある方の場合は、それぞれの治療を優先してからインプラント治療を開始してください。未治療のままインプラント手術を行うと、感染症にかかりやすくなったり、経過観察へと移行できなかったりします[2]。
口内に細菌が残ったままインプラント治療を行うと、細菌感染によりインプラント周囲炎にかかりやすくなります[2]。治療を受けてインプラントを装着しても、治療後に脱落してしまいかねません。そのためまずは、口内の疾患を治療することを最優先としましょう。
治療を受けられない方3:特定の治療を受けている場合
特定の治療を受けていたり、過去に特定の医薬品投与を受けている方もインプラント治療で問題が起こることがあります[2]。
【特定の治療】
- ステロイド剤の使用
- 抗腫瘍剤の使用
- 抗血栓剤の使用
- 顎への放射線治療
上記の治療や服薬指示を受けている方の場合、治療・投与から一定の期間が経っていなければインプラント治療ができません。たとえばステロイド剤による治療を受けていた方であれば、投与終了から3年以上経過していれば問題がないと考えられます[2]。放射線治療に関しても、照射していた部位や期間、照射量によりインプラント治療に影響があらわれる可能性があります[2]。
何らかの治療や服薬を行っていた方は、インプラント治療相談の前に、主治医に治療を受けられるかどうかを確認したうえで進めたほうが良いでしょう。
治療を受けられない方4:年齢・生活習慣・状態による問題がある場合
全身性疾患がなかったり、治療を受けていなかったりする場合でも、年齢や生活習慣、体の状態により治療が受けられない可能性もあるので確認しておきましょう。
【生活習慣・年齢・状態による問題】
- 喫煙量の多い方
- 高齢者
- 若年者
- 顎骨量が少ない方
喫煙量の多い方は、インプラントの手術を受けても骨に結合しにくいとされています。また免疫力が低下していることが多く、感染症にかかりやすいこともインプラントが向いていないとされる理由です。
高齢者の方、若年者の方もインプラント治療を受けることはできます。ただ高齢者の方は全身性疾患があることが多く、若年者の方は顎の骨が成長途中であると考えられるでしょう。それぞれの方の状態にあわせて、慎重な治療が求められる例です。
顎骨量の少ない方は治療を受けられないわけではありません。しかし骨量を増やす手術が必要となることもあるため、一般的な骨量の方とくらべて治療が複雑になりがちです。骨量を増やすための手術が問題なく行えるようなら、インプラント治療を完了させられます。
インプラントの副作用・リスク
それでは次に、インプラントの副作用やリスクについて解説していきます。インプラントとはメリットの多い治療法ではありますが、次のような副作用やリスクがあることも把握してください。
【副作用・リスク】
- 手術中に起こり得るリスク
- 感染症への罹患リスク
- インプラントの破損・脱落リスク
インプラントの手術は外科手術なので、何らかのトラブルが発生することも考えられます。たとえば神経や血管が損傷したり、インプラント装着時にミスが起きたりすることも少なからずあるでしょう。手術後にインプラントが骨に定着しにくくなることもあります。
また外科手術であることから、感染症に罹患するリスクもあります。歯科医院の設備が不衛生である場合に考えられるリスクです。前述したように、虫歯や歯周病をそのままにして手術を受けた際にも感染リスクは高まります。また術後に刺激物を食べたり、アルコールを摂取したり、強くブラッシングをしたりしたときにも感染症が起こりやすくなります。
さらに顎の骨に少なさや細菌感染などの問題を抱えた方がインプラントの手術を受けると、インプラントの破損・脱落が起こりやすくなることにも注意が必要です。細菌感染ではインプラント周囲炎による脱落が起こりやすくなりますし、骨が柔らかい場合も定着が遅れやすくなります[2]。
インプラント治療には、症例や体の状態によって少なからず副作用やリスクもあるものです。ご自身の状態をよく考慮して、できる限りリスクや副作用が起こりにくいようにしてから治療に臨んでください。
【関連記事】インプラントの安全性やリスクを解説
インプラントの治療の流れ
「これからインプラント治療を受けたい」と思われている方に向けて、治療の流れについてご紹介します。インプラント治療は以下のようにカウンセリングから始まり、治療後のメンテンナンスへと続きます。
【治療の流れ】
- カウンセリング
- 検査
- 抜歯
- インプラント埋入手術
- 治癒期間
- 型取り
- インプラント装着
- メンテナンス
インプラント治療を希望されるなら、まずは歯科医院によるカウンセリングを受けてください。カウンセリングではインプラント治療における正しい知識が知れるので、希望する治療方法を選択しやすくなるでしょう。
治療にかかる費用や治療計画、歯科医院ごとの治療方針についての話もあるので、納得できるものであるか患者様自身で判断してください。患者様にとっては、不安点や疑問点について質問できる良い機会でもあります。
カウンセリングを受けて治療を受けようと決断されたら、術前検査へと進みます。術前検査ではX線・歯科用CT・口腔内写真・シミュレーションソフトなどを用いて綿密に口腔の状態を検査するのが一般的です[2]。顎の骨の状態や神経・血管の場所を把握し、できる限り少ないリスクでインプラント手術を実施できるようにします。そして検査の結果から治療計画が立てられるため、術前検査は治療全体を左右する重要なステップと言えるでしょう。
その後は治療計画にしたがって治療を進めていきます。もし抜歯をする必要性があれば抜歯をしますが、必要がなければそのままインプラント埋入手術へと進みます。その後、3~4か月間の治癒期間で骨とフィクスチャーが結合されるまで待機。そしてアバットメントを用いてフィクスチャーと上部構造を結合する手術を行ったら、さらに1~2週間の治癒期間を設けます。
その後型を取ってインプラントを装着すれば治療は完了です。しかしインプラントの予後はメンテナンスによって左右されます。定期メンテナンスを欠かさず、ご自身でのケアを万全に行うことも治療の一環だと言えるでしょう。
インプラントの手術方法
インプラント治療の流れの中でも、最も不安が大きいのが手術ではないでしょうか。歯科治療において外科手術を経験する機会はそれほど多くありません。どのような手術が行われるのか気になる方も多いものです。
インプラントの手術には「1回法」と「2回法」の2種類があります。それぞれの手術法について詳しくご紹介します。
1回法
インプラントの「1回法」とは、その名の通り、手術を1回だけ行う方法です。従来の手術では1回目の手術の後に、3~4か月間の治癒期間をおいてから2回目の手術を行っていました[2]。1回目の手術で顎の骨に穴を開けて、2回目の手術で再び歯肉を切開。そしてフィクスチャーの固定状態を確認してからヒーリングキャップを装着します。そして約1~2週間後にアバットメントを装着する方法です。
しかし1回法では1回目の手術で、顎の骨への穿孔とヒーリングキャップの装着まで済ませてしまいます[2]。つまり歯肉を切開する回数も1回のみとなるため、低侵襲な治療が可能となる方法です。現在では1回法が主流となってきています[2]。
切開部分を縫合しないことから感染リスクが高まると言われていますが、感染リスクは縫合した場合にもあります[2]。したがって1回法は通院の負担、身体の負担ともに軽減させられる方法です。
2回法
「2回法」は治療の過程において2回の手術を行う方法です。1回目の手術を行った後に切開部分を縫合し、約1週間後に抜糸を行います[2]。そして3~4か月後、とくに問題がなければ2回目の手術でふたたび歯肉を切開し、ヒーリングキャップを装着します[2]。さらに1~2週間後、アバットメントを取り付ける方法です[2]。
インプラントではこれまで2回法が主流でしたが、1回法と2回法の治療成績に大差はないとされています[2]。2回法では歯肉の切開を2回行わなければならず、患者の負担が増加します。そのため前述のとおり、現在では1回法で治療をするのが一般的です[2]。しかし2回法を採用している歯科医院もあるでしょうから、治療を検討するなら知っておきたい治療法でしょう。
インプラント治療中の痛みについて
顎の骨に穴をあけるインプラント治療では、痛みを不安に思われる方も少なくありません。しかし治療中は次のような2種類の方法により痛みを緩和させるため、ほとんどの場合で強い痛みを感じることはないでしょう。
方法1:静脈内鎮静法
インプラント治療中の痛みを緩和させるための方法として一般的なのが静脈内鎮静法です。静脈内鎮静法とは静脈に鎮静薬を点滴しながら治療を行う方法のことを指します。
静脈内鎮静法では半ば眠っているような状態となり、痛みを感じにくくなります。さらに意識がはっきりとしなくなることから、治療への不安感も軽減できます。また静脈内鎮静法には健忘作用があるため、後に治療中の記憶が失われやすいことも特徴です。
しかし全身麻酔のように意識がなくなるわけではないため、治療流の呼びかけには応じられます。インプラントの手術では以上のような特徴を持つ静脈内鎮静法がよく用いられる方法です。
方法2:局所麻酔
局所麻酔は抜歯のときにも用いられる、局所的に痛みを緩和させる麻酔法です。注射器で麻酔薬を投与することで、痛みはほとんど感じなくなります。しかし静脈内鎮静法とは違い意識ははっきりとしています。そのため治療に対する不安感や恐怖感などは残るでしょう。
不安感や恐怖感を薄れさせるためには静脈内鎮静法のほうがメリットが大きいでしょう。しかし静脈内鎮静法をした後は、念のために車の運転は控えるべきです。そのため帰宅時に車の運転が難しくなる静脈内鎮静法よりも、意識がはっきりと残る局所麻酔にメリットを感じられる方もいます。
歯科医院と相談のうえで、ご自身に適した痛み緩和措置をとることが大切です。
方法3:痛み止め
インプラント手術後の痛みには、痛み止めを処方して対処します。服用タイプが3~5回分処方されるのが一般的です。
インプラント治療による痛みは、手術後数日間にわたり残ることもあります。しかし処方される痛み止めで帰宅後の痛みは対処できるでしょう。
【関連記事】インプラント治療は痛い?痛みが起こる原因や緩和方法
インプラントの費用
インプラントは保険適用対象外治療となり、平均価格は1本あたり328,000~399,000円です[2]。その他の歯科治療に比べて高額だと思われることでしょう。しかし次のように医療費控除を申請したり、デンタルローンを活用したりすることで金銭的負担を抑えられます。
医療費控除について
インプラント治療が10万円以上、もしくは所得金額の5%となる場合に「医療費控除」を申請できます。
医療費控除とは治療にかかった高額な医療費を控除とし、所得税の還付を受けられる制度です。控除の対象となるのは実際に支払った医療費の合計額から、10万円もしくは総所得金額の5%を差し引いた金額となります[6]。
確定申告で申請をすれば、所得金額から支払った医療費分を差し引けます[6]。最高200万円までが控除対象となるため[6]、ほとんどの場合でインプラント治療費全額が控除されるでしょう。
医療費控除を申請すれば、結果的にインプラント治療費を全額負担することはなくなります。上手に活用してインプラント治療における金銭的負担を軽減させてください。
【関連記事】インプラントの医療費控除を確定申告で申請する方法
デンタルローンについて
インプラント治療費の一括支払いが難しい場合は、デンタルローンを利用する方法もあります。医療費控除も受けられますが、控除を申請しても治療費は一旦お支払いいただかなくてはなりません。高額な支払いが難しいという方でも、デンタルローンなら毎月の返済にて無理なく支払えます。
歯科医院にてデンタルローンを取り扱っていることもあるでしょう。もし取り扱いがなければ、銀行やクレジットカード会社で利用できるデンタルローンを探してみてください。
ローンなので利息の支払いが必要となります。しかしインプラント治療を検討されている方にとっては、便利なサービスであることに間違いないでしょう。
【関連記事】インプラント治療を受ける際に組めるデンタルローンとは?
インプラント医院の選び方
インプラント治療を受けるには、次のようなポイントから信頼できる歯科医院を選ぶことが何よりも大切です。インプラント治療は歯科治療の中でも、外科手術を伴う危険性の高い治療と言えます。さらに治療後に定期メンテナンスを受け続けることを考えると、インプラント医院との関係は長く続きます。
信頼できるインプラント医院を選ぶには、次のようなポイントを重視してください。
【医院選びのポイント】
- 治療前に十分な説明がある
- 治療前に全身の状態を確認する
- 口内全体を含めた治療計画を立てている
- 設備が充実している
- インプラント治療の経験が豊富な医師が在籍している
インプラント医院の選び方とは、上記の5つのポイントを重視して行うことが大切です。まずは治療前に治療費や治療期間、インプラントの保証内容などについてしっかりとした説明があるか確認してください。
また全身の健康状態を確認してくれるかどうかもチェックしたいポイントです。先に解説したように、全身性疾患などがある場合はインプラント治療が難しくなります。そのため口内だけでなく。全身の状態を確認してくれる歯科医院に治療を任せるのが安心でしょう。
そしてインプラント治療を受けるには、口内が健康であることが望ましいものです。虫歯や歯周病、噛み合わせなど、総合的な治療計画を立てる歯科医院であれば信頼できるでしょう。
しかしカウンセリングを受ける歯科医院選びで迷うこともあるはずです。もし迷ったら設備が充実していること、インプラント治療経験が豊富な医師が在籍していることを重視して選んでください。
インプラント治療の経験が豊富な医師であれば、さまざまな症例を知っているはずです。特に骨の量が少なかったり、全身性の疾患がある方は経験豊富な医師による治療を受けられることをおすすめします。難症例に関して造詣が深い医師であれば、適切な状態での治療を提供してくれるはずです。
以上の5つのポイントを意識しながら歯科医院を選べば、納得の行くインプラント治療が受けられるはずです。
【関連記事】インプラント専門医と医院の選び方
インプラントのよくある質問
インプラントとはどのようなものか、概要からメリット・デメリット、治療の流れ、副作用やリスクなどさまざまな観点から解説してきました。しかしインプラント治療について、まだ疑問や不安を抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、インプラント治療に関して患者様からよくある質問についてお答えしていきます。ご自身がインプラント治療に向いているかどうか、どのようなことに注意するべきか判断するための参考としてご覧ください。
年齢制限はありますか?
インプラントに明確な年齢制限はありません。インプラントを行えるのは、20歳代から80歳代までの方です[7]。特に年齢制限は設けられていません。しかし顎の骨が発達段階にある若年の方や、健康状態に問題があることの多い高齢者の方では治療が難しくなります。
しかし理想的とされる年齢以外で治療が受けられないわけではありません。もし健康や身体の状態がインプラント治療に適合していれば、特に年齢制限はなく受けていただける治療です。
インプラントは虫歯になりますか?
インプラントは虫歯になりません。虫歯にならない理由は、天然歯のようにエナメル質や象牙質などのように、カルシウムやリンが溶け出すような素材ではないためです。
虫歯になるのは歯に歯垢がたまり、歯垢の中で虫歯の原因菌が増殖することに由来します。虫歯菌は糖質から酸をつくりだし、酸によりエナメル質や象牙質を溶かして歯に穴を開けるのです。
インプラントはチタンやジルコニア、セラミックなどの金属でつくられます。したがって虫歯の原因菌がつくりだす酸で溶けるような素材ではないため虫歯にはなりません。
【関連記事】インプラントは虫歯になるのか?
インプラント治療後に喫煙しても問題ないですか?
できる限り喫煙は控えてください。インプラント治療後に喫煙をすると、次のようなリスクが高まります。
【喫煙の影響】
- 感染症のリスクが高まる
- 骨と結合されにくくなる
- 術後の傷が回復しにくくなる
ニコチンは免疫力を低下させ、血流を阻害します。そのため細菌感染に負けやすくなり、炎症を起こしやすい状態になることも少なくありません。また血流が阻害されると骨が弱くなり、インプラントと骨が結合しにくくなったり、傷の回復が遅れたりしやすくなります。
喫煙量の多い方は、インプラント治療を受ける自体に注意が必要だと判断されることもあるほどです。たとえ治療が完了したとしても、予後に問題が起きたり、治癒期間が長くかかったりする恐れもあります。治療後はできる限り禁煙を心がけるようにしてください。
インプラント術後の歯みがきは?
インプラント手術をした後は、数日間は歯みがきを控えるようにしてください。
手術後は出血が見られることが多いものです。術後の傷は血液が固まることにより治癒が促されます。そこで歯みがきやうがいで血液を洗い流してしまうと、術後の回復が遅れる可能性が高くなるためです。術後数日間はうがいや歯みがきで刺激を与えないほうが回復が早まります。
ただし天然歯はインプラント術後にみがいても構いません。むしろインプラント部分に細菌が感染しないように、清潔にしておくことが求められます。ただしインプラントを埋入した部分を刺激しないように、優しくみがくことが大切です。
インプラントとは定期メンテナンス次第で寿命の長い治療法
いかがでしたでしょうか?この記事を読んでいただくことでインプラント治療とはどのようなものかがご理解いただけたと思います。
インプラントでは治療に注意が必要な方もいます。しかし治療が終わり、その後も定期メンテナンスを欠かさなければデメリットも少なく、10年以上の寿命を期待できる治療法です。
あきもと歯科では良質なインプラント治療を提供することをモットーとしており、確実で安全な治療のために精密な検査も行っております。診療は土日も行っておりますので、平日がお仕事の方でも無理なく通院して頂ける体制です。
[1]参照:JSTAGE:(PDF)オッセオインテグレーテッドインプラント治療を考える:歴史的背景と口腔外科医が受け入れた理由
[2]竹本和代ほか著. 週刊朝日MOOK「いい歯科インプラント治療医」を選ぶ!2013. 朝日新聞出版 2013; 38-188
[3]参照:JSTAGE:(PDF)経過例からインプラント治療の長期寿命を検証する
[4]参照:JSTAGE:(PDF)インプラント周囲炎に関連する全身的リスクファクター
[5]参照:JSTAGE:(PDF)職域成人における口腔清掃習慣と歯周ポケット形成との関連性
[6]参照:国税庁:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
[7]参照:厚生労働省:(PDF)歯科インプラント治療指針
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